こんにちは、syuyaです。
文字の歴史と発展の過程を追っているこのシリーズですが、いかがでしょうか?
本記事の前のパートであるpart1では、古代から使われていたものの現在では使われなくなった文字たちをご紹介しました。
楔形文字、ヒエログリフ、甲骨文字、フェニキア文字、ブラーフミー文字などといった文字が世界中で作られ、その後時代の移り変わりと共に使用されなくなり滅んでいきました。
これら古代に使用されていた文字は、時代を下って現代で使用されている文字たちの原型となります。
使用者である人間と同じように、文字も世代を経て進化し、より便利なものへと変わっていくのです。
こういった文字の変遷を辿るのは、とても面白い事だと思いませんか?
今回のpart2からは、文字が成立した後に途絶えることなく、現在まで使用されている文字をご紹介します。
漢字
漢字
まずご紹介するのは、皆様お馴染みの漢字です。
漢字は発祥地である中華人民共和国を中心とした、東アジアの国々である日本、韓国、北朝鮮、ベトナム、台湾からなる漢字文化圏で使用されている、もしくはされていた文字です。
しかし、これらの国の中には漢字を廃止した北朝鮮や、ほとんど他の文字に代替した韓国やベトナムなどの国もあります。
使用人口一位のラテン文字に次いで、世界で二番目に使用人口が多い文字でもあります。
ラテン文字などの表音文字とは違い、漢字は一つの文字が意味を表わす表意文字となっています。
また、他の言語が古代エジプトのヒエログリフや、古代メソポタミアの楔形文字に影響を受けているのに対し、漢字は甲骨文字から独自に発展した文字体系です。
通常、上から下へ書きますが、横書きにも対応でき、その場合は左から右へと書きます。
漢字の総数は膨大な数に及び、その正確な数を把握する事は困難です。
また、漢字と言ってもその時代によって書体が変遷しており、
時代が下るにつれて金文、篆書(てんしょ)、隷書、楷書と自体がより簡略化され、書きやすく改良されていきます。
金文
まず最初の書体は、前回の記事でご紹介した甲骨文字が、時代を下ってより書きやすくなった金文という書体です。
古代中国の西周で使用されていた金文
金文は紀元前11世紀から紀元前3世紀にかけて、殷や周、秦や漢といった、古代の中国王朝において使用されていました。
主に古代の遺跡から出土する青銅器に書かれたものが多く発見されています。
先祖である甲骨文字の特徴を色濃く残しており、字そのものが概念を表わす象形文字の要素が強かった文字でした。
篆書
その後、金文をより簡略化した篆書(てんしょ)が使用されます。
https://logo.atelierkakko.jp/ten/
篆書は金文をよりシンプルに、しかし装飾的にデザインした文字です。
太い線に角ばった自体が特徴的で、古代の中国王朝において印章や印璽(いんじ)に使用されてきました。
しかし、篆書は官吏や知識人など、一部のエリート層にのみ使用された文字であり、一般人には普及しませんでした。
この篆書が後に、一般人でも使用しやすく改良された隷書や楷書、草書といった文字へと変化していきます。
また、篆書は現在でも日本などの漢字圏において、パスポートや印鑑などでも使用されます。
日本のパスポート
上部に篆書で”日本国旅券”と書いてある
このように、篆書はその歴史の深さと格式高い書式から、成立から2000年近くたった現在においても公式文書など、公的な文書などで使用される文字となっています。
隷書
その後、篆書をさらに簡略化し使いやすくした隷書が生み出されます。
隷書で書かれた”曹全碑”の一部分
隷書は中国初の統一帝国であった秦の頃から、同じく広大な帝国であった前漢の時代まで使用されていました。
広大な国土を統治したこれらの王朝では、その行政文書なども莫大な量となりました。
そこで、従来の書くのに手間がかかる篆書を改良し、より効率的に書くために簡略化された隷書が生まれました。
隷書の特徴は、篆書に比べて角ばった部分を無くし、速く書きやすいように改良された流れるような字体が特徴です。
このように改良する事で、より多くの記録文書を効率よく記すことが可能となりました。
しかし、隷書は文字によって線や形状がまだらで、少し統一感のない文字であるという欠点がありました。
楷書
この隷書の欠点を改善するべく、後漢の末期から南北朝時代に発明されたのが楷書です。
https://shodo-kanji.com/b1-1-2kaisho_square_style.html
楷書は、隷書の欠点であった線や文字の不統一を正し、形を揃え統一化しました。
後漢末に制定された楷書は、続く中国の王朝である唐や宋の時代に書道として洗練されます。
楷書は全ての漢字の基本的な形とされ、日本などの他の漢字使用国においても標準的な漢字の形として広く学ばれ使用されている書体です。
このようにして、甲骨文字から発展した漢字は、楷書という正式な形を獲得した事で、統一された文字体系として確立されます。
漢字はその後、日本に渡り仮名文字に改良されたり、ベトナムに渡りチュノム(𡨸喃)に改良されたりして、東アジア諸国に広く浸透していきます。
結果、ラテン文字やアラビア文字、キリル文字と並んで、多国家間で使用されるワールドワイドな文字として、現在も世界で使用されています。
ギリシア文字
http://toxa.cocolog-nifty.com/phonetika/2008/11/post-e051.html
Ελληνικά γράμματα
続いてご紹介するのはギリシア文字です。
ギリシア文字は自分たちが話していたギリシア語を表記する為、古代ギリシア人が当時交流していたフェニキア人の使用するフェニキア文字を元に作られた文字です。
紀元前9世紀頃に開発され、現在でもギリシア語などに使用される文字であり、
現在でも使用されている文字としては漢字に次いで二番目に長い歴史を持つ文字だと言えます。
このギリシア文字から、ラテン文字やキリル文字などが発明されるなど、西洋の文字の雛形となった文字でした。
音素文字の一要素を表わす”アルファベット”という言葉も、このギリシア文字の最初の二文字である”α(アルファ)”と”β(ベータ)”から名付けれたものです。
全部で24文字の大文字と小文字からなるアルファベットで構成されていて、他のアルファベットにはない特殊な文字も存在しています。
通常横書きで、左から右へ書かれます。
また、
・数学における円周率を表わす”π(パイ)”
・同じく数学における総和を表わす”Σ(シグマ)”
・物理学における波長を表わす”λ(ラムダ)”
など、様々な科学記号としてギリシア文字が使われています。
現在ヨーロッパで使用されている大半の文字の原型となった文字である為、ヨーロッパの文字の中でも特別な地位にある文字であると言えるでしょう。
ラテン文字
https://academic-accelerator.com/encyclopedia/jp/latin-alphabet
Latin alphabet
続いてご紹介するのはラテン文字です。
ギリシア文字から発展した文字で、当時イタリア半島に住んでいたラテン人が話していたラテン語を記す為に使用されました。
また、ラテン人は強大な都市国家であるローマを築き上げた事から、ローマ字とも呼ばれます。
現在の人類の使用する文字の中で、最も使用者数が多い文字です。
特にアメリカ合衆国やイギリスで話される英語が、世界の人が意思疎通をする際に使用されるグローバル言語となりつつある事から、中国や日本などの東アジア諸国や、中東諸国などの非ラテン文字圏の国々であっても、道案内などでラテン文字の表記が並記されている所が多くあります。
26文字の文字から成り立っており、母音文字と子音文字を組み合わせる事により音を表わすアルファベットです。
通常横書きで、左から右へ書かれます。
古代において、ラテン語を話していたラテン人達は、当時の地中海世界において先進的な文明を有していたギリシア人達と交易するうち、
彼らの言語であるギリシア語や、ギリシア語を記す文字体系であるギリシア文字を学びました。
そして、当時イタリア半島を支配していたエトルリア人の話すエトルリア語や、その文字であったエトルリア文字にも影響を受けた結果、ラテン人独自の文字も開発されていきます。
そうして、ラテン人が使用するラテン文字が成立します。
その後、ラテン人が強大な帝国であったローマ帝国を建国し地中海一体を支配すると、ラテン文字は帝国内で広く普及するようになりました。
ローマ帝国の最大領土
https://www.y-history.net/appendix/wh0103-069.html
4世紀から5世紀にかけてのゲルマン人のローマ帝国内への流入により、実質的にラテン人のヨーロッパ支配が終わります。
しかし、その後に成立したフランク王国などのゲルマン人国家においても、ラテン文字の使用は継続される事となります。
そして、現代においてもそれらの地域では、2000年前のラテン人が使用していたラテン文字が、引き続き使用されることとなったのです。
現在において、主にラテン文字を使用する言語としては、
・英語、ドイツ語、スウェーデン語を始めとしたゲルマン語派。
・イタリア語、スペイン語、フランス語を始めとしたロマンス語派。
・ポーランド語、チェコ語、クロアチア語を始めとしたスラブ語派。
・ラトビア語、リトアニア語などのバルト語派。
・エストニア語、ハンガリー語などのウラル語派。
・アイルランド語などのケルト語派
といった言語がラテン文字を使用します。
ラテン文字は基本はA~Zまでの26文字とそれぞれの小文字から成り立ちますが、
・ドイツ語の ”ä、ö、ü、ß”
・フランス語の ”À, Â, Ç, É, È, Ê, Ë, Î, Ï, Ô, Œ, Ù, Û, Ü, Ý”
・スペイン語の ”ñ”
など、その言語特有のアルファベットが存在します。
また、現在のコンピューター技術の根幹を成しているプログラミング言語は、英語ベースで作られている為にラテン文字が使用されています。
2000年前の世界帝国であったローマ帝国で使用され始めたラテン文字は、今後も世界の文字の代表として存在し続ける事でしょう。
ヘブライ文字
https://novel.daysneo.com/works/episode/75042a3024f7d589b9a3296c72e8541e.html
אלפבית עברי
続いてご紹介するのはヘブライ文字です。
ヘブライ文字はアラム文字より派生した文字であり、主にイスラエルで使用されるヘブライ語を記すために使用されます。
ヘブライ文字の特徴としては後述のアラビア文字同様、
全部で22文字ある文字は全て子音で、それに母音を表わす記号を付与する事で音を表わすという性質を持つアブジャドと呼ばれる種類の文字体系であるという事です。
また同じくアラビア語同様、右から左に読む文字となっています。
文字としての歴史は大変古く、
現代ヘブライ文字の原型となった古ヘブライ文字は、紀元前10世紀頃には親の文字体系であるフェニキア文字やアラム文字から枝分かれして存在していたとされています。
ヘブライ文字はユダヤ教の聖典である旧約聖書で使用されている文字であり、多くの宗教的儀礼で使用されています。
しかし、ヘブライ文字を使用するヘブライ語自体は、紀元前1000年ごろのユダヤ人のイスラエル王国やユダ王国で話されていたのを最後に、話し言葉としては途絶えてしまいます。
その後、聖書関連の文献を記すための文字として使用されるのみでした。
しかし、19世紀に起きたユダヤ人の為の国家の樹立を目指したシオニズム運動の高まりに伴い、話し言葉としてのヘブライ語の復活を目指す動きが起こります。
そうして、1920年代には長らく途絶えていた話し言葉としてのヘブライ語が完全復活し、1948年にイスラエルが建国されて以降は公用語として使用されるようになりました。
それに伴い、イスラエルの街中の標識にヘブライ文字が表記されるなど、ヘブライ文字の文字としての地位が完全復活する事となりました。
このように、ヘブライ文字はユダヤ人にとって、重要な民族的アイデンティティの一つであると言えるでしょう。
アラビア文字
https://www.ishigaki10.world/entry/2022/10/28/200000
الحروف العربية
続いてご紹介するのはアラビア文字です。
主に中東諸国に住むイスラム教徒の国で使用されている文字であり、ラテン文字、漢字に次いで世界で三番目に使用人口の多い文字でもあります。
文字としてはヘブライ文字と兄弟関係にあたるため、共通点がとても多くあります。
内陸交易を行っていたアラム人が使用していたアラム文字から、シリアで使用されていたシリア文字、ヨルダンで使用されていたナバテア文字と文字の形を変化させていき、紀元後400年ごろにアラビア半島でアラビア文字が成立します。
35文字あるアラビア文字は全て子音で、母音を表わす記号を付与する事で音を表わす文字形態であるアブジャドと呼ばれる文字体系の一種です。
また、右から左へと読む文字でもあります。
そして、アラビア文字の最大の特徴は、一つの単語を表わす際に文字と文字を連結させる続け字で書かれるという所です。
”アッサラーム・アライクム”と書かれたアラビア語
下の文字が組み合わされて続け字となり、上の単語が作られる
https://aagata.ciao.jp/arabiago/assalaam/index.html
このように文字同士がくっつく文字体系の事を連結文字といい、機能性や美的感覚両方をとっても良いように長い歴史をかけて形成された仕組みです。
またアラビア文字は、東アジアの漢字と同じように書道の対象として美しく書く技術が発展しており、様々なアラビア書道の作品が現代にも残っています。
アラビア書道の作品例
https://islamicpeaceart.com/%E7%BE%8E%E3%81%97%E3%81%8D%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%83%93%E3%82%A2%E6%9B%B8%E9%81%93%E3%81%AE%E4%B8%96%E7%95%8C/
日本人にとってはあまりなじみが無く、また理解するのが難しいアラビア文字ですが、とても奥深く勉強する価値のある文字であると言えるでしょう。
キリル文字
https://gogatsusai.jp/94/visitor/kikaku/520
кириллица
続いてご紹介するのはキリル文字です。
最大の使用人口を誇るロシア連邦を始め、ベラルーシやウクライナを始めとした国々。
そしてセルビアやモンテネグロなどの旧ユーゴスラヴィア連邦構成諸国。
更にキルギスやタジキスタン、モンゴルなどと言った旧ソビエト連邦構成諸国で使用されている文字です。
濃い緑の地域がキリル文字を使用 黄緑の地域がキリル文字を併用
緑の縞模様のカザフスタンは現在キリル文字を使用しているが、ラテン文字に移行準備中
en:User:MaGioZal – Self-made, English Wikipedia, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=663470による
キリル文字はギリシア文字から派生した文字です。
アルファベットであり、一つ一つの文字が母音または子音を表わす音素文字となっています。
キリル文字は9世紀に東ローマ帝国のキリスト教修道士であったキュリロス(ロシア名キリル)によってギリシア文字を手本に作られたグラゴル文字を、弟子たちが改良を加えて作られました。
キリスト教の布教のために現在のチェコ共和国東部のモラヴィアへと派遣されたキュリロスは、そこに居住していたスラブ語を話す人々に、聖書の教えを説明し、記録させる必要に迫られます。
しかし、既存の文字ではスラブ語を上手く表記する事が出来ませんでした。
その為に、ラテン語やヘブライ語など諸言語に習熟したキュリロスが、スラブ語を記すのに特化したグラゴル文字を開発しました。
それをキュリロスの死後、彼の弟子たちが更に改良を加えます。
新たに弟子たちによって完成された文字は、キュリロス(キリル)に敬意を表して彼の名を冠したキリル文字と名付けられるにいたりました。
キリル文字は通常横書きで、左から右へ書かれます。
またキリル文字の総数は使用される国によって多少異なり、ロシア連邦においては33文字から成り立ちます。
現代ではラテン文字、漢字、アラビア文字とともに多数の言語で使用されるワールドワイドな文字となっており、文字としての地位はとても高いと言えます。
ソビエト連邦崩壊と共に、旧キリル文字使用国がラテン文字へ使用文字を変える動きもありますが、それでも依然として存在感を持っている文字であります。
キリル文字を学ぶ意義は大きいと言えるでしょう。
アルメニア文字
Հայկական այբուբեն
続いてご紹介するのはアルメニア文字です。
アルメニア文字は、ユーラシア大陸の南コーカサス地方に位置する内陸国であるアルメニアで話されるアルメニア語を表記するために開発された文字です。
4世紀から5世紀にかけて、アルメニア人であるメスロプ・マシュトツにより、当時の先進国であった東ローマ帝国で使用されていたギリシア文字を手本として開発されました。
成り立ちとしては、キリル文字と非常に近しいものと言えます。
通常横書きで、左から右へ書かれます。
アルファベットの数は、作成当初は36文字でしたが、後に追加され38文字となりました。
アルメニア文字の事を、アルメニア語自体は”アイブビーナ(այբուբենը)”と呼称します。
これは、アルメニア文字の最初の文字である”Ա(アイブ)”と”Բ(ビーナ)”から由来した呼称です。
またアルメニア文字の表記の特徴としては、
・ピリオドを” . ”ではなく” ։ ”で表記する。
・疑問符を” ? ”ではなく” ՞ ”で表記する。
など、ユニークな特徴があります。
グルジア文字
https://www.chikyukotobamura.org/muse/wr_casia_13.html
ქართული დამწერლობა
続いてご紹介するのはグルジア文字です。
グルジア文字はアルメニアと同じ南コーカサス地方の国家であるジョージア(旧名グルジア)で使用されている文字です。
この文字の成立過程については分かっていない事が多いのですが、現存する最古のグルジア文字が記された記録が、430年ごろに書かれた碑文であるとされています。
そして他の多くの文字同様、ギリシア文字を元に開発されたらしいという事が判明しています。
最初期のグルジア文字はムルグロヴァニまたはアソムタヴルリと呼ばれ、5世紀~9世紀まで使用されていました。
初期のグルジア文字であるムルグロヴァニで書かれたビール・エル・クット碑文
Jerusalem Terra – Inscription: Jerusalem II Old Georgian, CC 表示-継承 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=91318593による
そして、漢字における金文から篆書、隷書、楷書への変遷と同様に、グルジア文字も時代を下り形状を変化させます。
9世紀から11世紀にかけて、ヌスフリまたはクトホヴァニと呼ばれる形状に変わります。
中期のグルジア文字の形状であるヌスフリで書かれた Mikael Modrekili による手稿
上記二つの古いグルジア文字の形状をフツリ文字と呼び、現代では宗教関連の行事でのみ使用されます。
漢字における篆書のようなものですね。
その後、現在のグルジア文字の原型であるムヘドルリと呼ばれる形状に変わり、現代まで使用されているのです。
グルジア文字が使用されている地域はジョージア(旧グルジア)のみなのですが、その可愛らしい文字のフォルムから、密かに人気が高い文字でもあります。
ゲエズ文字
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ግዕዝ ነገረ ግዕዝ
続いてご紹介するのはゲエズ文字です。
ゲエズ文字はかつてアフリカのエチオピアやエリトリアで話されていたゲエズ語を記す為に開発された文字で、かつてイエメンの辺りで使用されていた南アラビア文字から作られました。
そして現在では、エチオピアやエリトリアで話されているアムハラ語などの諸言語の表記に使用されている文字です。
ゲエズ文字は、子音文字と付加記号によって、随伴母音を表わす文字体系であるアブギダの一種です。
文字の総数は子音26文字に加え、使用される言語によって文字が追加されます。
成立年が紀元前5世紀頃と大変古い文字体系であり、当時の形を残したまま現在まで使用されている大変歴史のある文字であると言えます。
また、広義のアルファベットの内の一つの形態を表わす”アブギダ”という言葉は、ゲエズ文字の最初の4文字である”አቡጊዳ”から作られました。
このように文字の成り立ちを考察するうえで、ゲエズ文字は大変重要な文字であるといえるでしょう。
チベット文字
https://www.weblio.jp/content/%E3%83%81%E3%83%99%E3%83%83%E3%83%88%E3%80%80%E6%96%87%E5%AD%97
བོད་ཡིག
続いてご紹介するのはチベット文字です。
主に中華人民共和国内のチベット自治区に住むチベット人たちによって使用されています。
アブギダの一種で、基本となる文字の前後上下に補助符号をつける事により発音を表現します。
基本的には左から右へ書きますが、上から下へ書くこともでき、さらには文字が連結して書かれる事もあります。
チベット文字は、元々は古代のインドの文字であるブラーフミー文字より派生した文字です。
ブラーフミー文字からいくつか文字の変遷を経た後、7世紀頃にチベットに存在していた国家である吐蕃(とばん)の王であるソンツェン・ガンポに命じられたトンミ・サンボータというチベットの学者が、インドの高僧たちと共に作り出したものと伝えられています。
現在でもチベット自治区では漢字などと併用されているほか、チベット人の宗教であるチベット仏教において、重要な経典の筆記などにはチベット文字が主に使用されています。
チベット人にとって重要なアイデンティティであると共に、その装飾的で美しい文字は、デザインとして見ても優れており、今後も残していくべき文字と言えるでしょう。
ビルマ文字
Khukuklub – 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=28171535による
မြန်မာအက္ခရာ
続いてご紹介するのはビルマ文字です。
ビルマ文字は、ミャンマー(旧名ビルマ)にて使用されている文字です。
ビルマ文字は、古代インドのブラーフミー文字から派生した文字であり、一つの文字がひとつの音節を表わすアブギダの一種です。
33の子音文字(ウィンタ)、14の母音記号(ウィットー)、5つの音声記号(サニットー)をベースに、音声を変化させるための修飾子や結合文字も含めて、全部で52文字の基本セットから成り立っています。
基本的には横書きで、左から右へ書かれますが、場合によっては縦書きも可能です。
単語の組み合わせによっては文字の連結がおき、その規則性を知らなければ読むのが難しい言語でもあります。
丸みを帯びた円形の文字で、文字としてとても美しい装飾性に富んだ文字と言えますね。
タイ文字
http://www.183da1.net/?p=10365
อักษรไทย
続いてご紹介するのはタイ文字です。
タイ文字は、東南アジアの国であるタイ王国で話されるタイ語を表記する為の文字です。
13世紀のタイで興っていた王朝であるスコータイ朝の全盛期を築いた、第三代国王ラームカムヘーンの命によりクメール文字を元に作られました。
クメール文字から遡って文字としての源流を辿れば、タイ文字も古代インドのブラーフミー文字に辿り着きます。
インドで発明されたブラーフミー文字が、このように遠く東南アジアの文字にまで影響を与えたというのだから驚きですよね。
同じくブラーフミー文字から派生した東南アジアの文字であるビルマ文字とは、丸みを帯びた形状などの共通点があります。
子音字に符号を付与する事で音節を表わすアブギダであり、44の子音字から成り立ち、符号を付加することによって音節を表します。
通常、横書きで左から右へ書かれます。
タイ文字を使用するタイ語を話す人口は、総数でおおよそ7,000万人ほどと言われています。
また、日本に訪れるタイ人の数も多く、彼らとのコミュニケーションの手段としてタイ文字を学ぶ価値は高いと思われます。
ベンガル文字
https://www.weblio.jp/content/%E3%83%99%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%AB%E6%96%87%E5%AD%97
বাংলা লিপি
続いてご紹介するのはベンガル文字です。
ベンガル文字は東インドのベンガル地方、およびバングラディッシュで使用されている文字です。
起源は古代インドのブラーフミー文字に遡ることが出来ます。
8世紀頃、ベンガル地方の仏教僧であったアターシャ・ディーパンカラ・シュリージュニャーナが、仏典や哲学書をベンガル地方の言葉で記す為に、現地で使用されていたブラーフミー文字を改良した事が、ベンガル文字の起源であるとされています。
基本となる子音に記号をつける事により、続く母音が決定されるアブギダの一種です。
このように、インドで使用されている大半の文字はアブギダなんですね。
特徴としては、主にインドで使用されるデーヴァナーガリー文字と非常に近しい特徴を持っています。
横書きで、左から右へ書きます。
ベンガル文字は主な使用言語であるベンガル語の他に、アッサム語、マニプリ語、オリヤー語、ミーゾ語など様々な南アジアの言語に使用される文字です。
その内、ベンガル語の話者数は約2億2,000万人ほどおり、ベンガル文字は何と日本の人口よりも多くの人に使用されている文字となります。
学ぶ価値のある文字であると言えるでしょう。
デーヴァナーガリー文字
https://indiamylover.com/2017/10/09/hindi2devanagari/
देवनागरी
続いてご紹介するのはデーヴァナーガリー文字です。
インドで広く使用されている文字であり、主な使用言語であるヒンディー語の他、マラーティー語、ネパール語などでも使用されます。
他の多くのインドで使用される文字同様、ブラーフミー文字から発展した文字です。
アブギダであり、基本となる子音字に附属記号をつける事でひとつの音節とします。
デーヴァナーガリー文字の最大の特徴は、各文字が”シローレーカー”と呼ばれる横線で貫かれているという事です。
シローレーカーは文字の最後に書くもので、一つの単語のまとまりごとに貫きます。
通常横書きであり、左から右へ書きます。
デーヴァナーガリー文字はブラフミー文字から派生した文字の内、主に北インドで派生した文字です。
その後、16世紀に北インドで隆盛を誇ったムガル帝国などで使用されている内に、徐々にインドにおける主要な文字となっていきます。
しかし、依然としてインドにはベンガル文字を始めとした多数の文字が存在していました。
ですが、1947年により成立したインド共和国において、
デーヴァナーガリー文字を使用したヒンディー語が国の公用語として憲法で規定されます。
これにより、インドにおけるデーヴァナーガリー文字の立場が確立されるに至ったのでした。
2023年現在、デーヴァナーガリー文字を使用するヒンディー語の話者数は4億2000万人ほど存在しています。
さらに、インド人口は2023年に中華人民共和国を抜き世界一位となり、今後も相対的にデーヴァナーガリー文字の使用者は増えるでしょう。
また、インドは2000年以降に目覚ましい経済発展を遂げた4か国(現在は5か国)であるBRICKSの一員であり、今後もさらなる経済成長が見込まれます。
これらの事から、よりインドの事を理解する為にも学んでおく価値のある文字であると言えます。
タミル文字
https://isotamadotnet.wordpress.com/tag/%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%AB%E9%9F%B3%E6%A5%BD/
தமிழ் அரிச்சுவடி
続いてご紹介するのはタミル文字です。
タミル文字は南インドのタミル人による文字です。
現在では南インドのタミル・ナードゥ州の他、スリランカ、シンガポール、マレーシアなどで使用されています。
古代インドのブラーフミー文字より派生した文字であり、南インドのタミル人の話していたタミル語を記す為に改良された文字となっています。
同じく南アジアで使用されるベンガル文字、デーヴァナーガリー文字とは共通の文字から派生した兄弟文字と言ってもよい関係ですが、これら二つの文字とは少し異なった形状をしています。
子音が特定の符号を伴う事で音節を表わすアブギダであり、12の母音字、18の子音字に加え6の外来用語の子音字から成り立っています。
タミル文字を使用するタミル語の話者数がおよそ7400万人おり、文字としての地位もかなりのものと言えます。
また丸みを帯びた独特の形状の文字は、その愛らしさから人気の高い文字でもあります。
ハングル文字
metalslick – 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=63996191による
한글 문자
続いてご紹介するのはハングル文字です。
ハングル文字は東アジアの国である大韓民国で話される韓国語を表記するために使用される文字です。
ハングル文字は古代より漢字を使用していた朝鮮半島において、1443年に李氏朝鮮の王であった世宗によって公布された文字体系です。
表音文字のアルファベットであり、14個の子音と10個の母音を組み合わせる事によって音節を表現します。
ハングル文字の特徴的な点は、母音文字記号と子音の文字記号を合体させ、一つの文字とする点です。
例えば、”k”の音を示す子音の文字記号である”ㄱ”と、”ア”の音を示す母音の文字記号である”ㅏ”が組み合わさり、”가(カ)”という一つの音節を示す文字となります。
このように、非常に合理的で学びやすい文字体系となっています。
しかし、ハングル文字が発表されて後しばらくは、中国大陸の文明を崇拝し、漢字こそが唯一の文明の文字であるとする朝鮮半島の保守的な知識人の反対にあいます。
その後、ハングルは主に下級の市民の読み書きに使用され、両班(ヤンバン)などの朝鮮半島の知識人階級は依然として漢字を使用していました。
その為、李氏朝鮮の公文書ではハングルは使用されず、漢字のみを使用しています。
その後1894年から1895年にかけて、李氏朝鮮を保護国とした大日本帝国の指導のもとで行われた、朝鮮半島の近代化政策である甲午改革(こうごかいかく)の一環として、今まで民衆の間でしか使用されていなかったハングル文字を公文書にも使用する事に決まります。
その後、新聞などではハングル文字と漢字を共に併用した国漢混用文を使用することとし、1945年の大日本帝国の敗戦まで続きます。
ハングルと漢字が併用された国漢混用文で書かれた毎日新報(1945年8月14日)
そして、1948年に大韓民国が建国されると、ハングル専用法が施行されます。
この法律はハングルを朝鮮半島唯一の国字とするべく施行された法律で、全ての文書をハングルでのみ表記する取り組みがなされました。
最初期は漢字も併記されていたものの、この法律は効を奏し、現在ではハングル文字が唯一の朝鮮語の表記文字となりました。
ハングル文字を使用する韓国語(朝鮮語)の話者数は7,720万人程とされ、文字としての地位も高い文字です。
更に、日本と朝鮮は地理的・文化的にも近しい国で、古くより交流を重ねてきました。
そして、日本を訪れる訪日外国人としては韓国人が最も多く(2022年)、日本国内の案内板にも英語と中国語と共に、ハングルで書かれた韓国語が並記されているものが多くあります。
これらの事から、ハングル文字を学ぶ重要性は高いものであると言えるでしょう。
仮名文字
https://saishokutengoku.wordpress.com/2016/02/14/%E3%81%B2%E3%82%89%E3%81%8C%E3%81%AA%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A%E3%82%92%E7%B4%B9%E4%BB%8B%E3%81%99%E3%82%8B%EF%BC%81an-introduction-to-hiragana-and-katakana/
かなもじ
カナモジ
続いてご紹介するのは仮名文字です。
仮名文字は東アジアの国である日本国で話される日本語を表記するために使用される文字です。
仮名文字は合計46文字の平仮名と片仮名に、”ゐ””ゑ””ヰ”ヱ””の4文字を加えた96文字から成り立っています。
中国大陸より伝わった漢字を元に作られた文字で、文字が音を表わす表音文字の内の、一つの文字が一つの音節を表わす音節文字にあたります。
日本には、古来より大和言葉(やまとことば)と呼ばれる口語が存在していましたが、それらを記す文字がありませんでした。
そして、1世紀頃に大陸より漢字が伝来すると、漢字本来の持つ意味を無視して、漢字の音のみ利用して日本語の話し言葉を記す借字をするようになります。
このようにして作られた、漢字を利用した日本独自の文字体系を万葉仮名といいました。
万葉仮名を用いて書かれた正倉院仮名文書
https://hanshotfirstjp.hatenablog.com/entry/20120313/1331623499
かくして、漢字の借用でありながらも、日本人は自分たちの言語を表わす”文字”を獲得するに至ったのでした。
しかし、画数の多い漢字をいちいち書くのは労力を使う為、漢字を崩して書きやすくしたり、漢字の一部のみ書き後は省略するようになります。
こうして生まれたのが平仮名・片仮名でした。
万葉仮名から平仮名への変遷の様子
万葉仮名を書きやすく崩したものが平仮名である
Jeannebluemonheo – 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=92551960による
万葉仮名から片仮名への変遷の様子
書きやすくするために万葉仮名の一部を抜き出したのが片仮名である
Pmx – 投稿者自身による著作物Created using the info from Image:Katakana origine.png, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1561310による
このようにして、漢字から日本で独自に発展した仮名文字が誕生します。
その後、紀貫之の土佐物語など、仮名文字で書かれた物語などが平安時代に記された事により、仮名文字が正式に日本の文字の一体系であると認識されるに至りました。
その後、主に平仮名は助詞や助動詞など漢字を支える為に使用され、片仮名は外来語などを表わす為に使用されるようになります。
emoji
😄🧑🎄🎩🐘🏊
最後にご紹介するのはemojiです。
emojiは日本語の”絵文字(えもじ)”から名付けられた名称です。
emojiの原型となったのは、1990年代後半の携帯電話がまだ普及する前の時代、主に日本の若者層の間で使用されていたポケットベル(ポケベル)の♥マークでした。
ポケットベル 末尾に添えられた『♥』がemojiの原型と言われている
https://realize-tcg.com/?pid=176839208
その後、ポケベルから携帯電話へと通信手段が変化すると、携帯電話で入力できる文字や記号を組み合わせて人間の顔などを表現する顔文字が発展しました。
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13225200458
当初、メーカーが想定していなかったユーザーにより独自に発展した絵文字文化は、結果としてメーカーの側をも動かすに至ります。
この絵文字の流行に乗るべく、1999年には日本の通信会社であるNTTdocomoが、自社のサービスであるiモードで使用できる絵文字サービスを開始します。
https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/news/1180333.html
こうして、日本で独自に発展した絵文字文化は、国内のみならず世界でも注目されます。
そして2009年に”emoji”が文字の世界標準規格であるUnicodeに組み込まれ、2012年にスマートフォンで使用可能になると、言語の枠を超えた普遍的な文字として世界中で使用されるようになりました。
このようにして、emojiは文字や言語を垣根を超えて、概念や感情などを伝えられる新たな”文字”として、その地位を確立したのでした。
emojiは物体の形をそのまま模した”象形文字”であるといえます。
スペインのラスコー遺跡の絵文字や、賈湖契刻文字(かこけいこくもじ)といった、物体の外見をそのまま表した原文字(proto-writing)から始まった人類の文字の歴史は、奇しくも再び物体の外見をそのまま模したemojiとなったのです。
文字の先祖返りを起こしたとも言え、こういった歴史を考えると、とても興味深いものだとおもいませんか?
まとめ
いかがだったでしょうか?
2パートに渡って、世界の文字の歴史をご紹介してきました。
今では絶滅してしまった文字も、現代の文字に多くの影響を与え、現代使用されている文字の中で生きていると言えます。
現代使われている全ての文字も、元を辿ればヒエログリフやウルク古拙文字、甲骨文字といった絵に近い文字から始まり、時代を下るごとに書きやすいように記号化されました。
そして、現代では逆にまたemojiのような、絵のように視覚的に訴える文字が発展しているというのは、非常に興味深いですね。
いずれ人類は文字を必要としなくなり、より高度な情報伝達手段を持つに至るかもしれません。
そんな未来が、楽しみなような楽しみでないような、複雑な心境です。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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